写真家の情熱

人は好きなことをお仕事にしてしまうと、

仕事なのか、ライフワークなのか、境い目がわからなくなることがある。

 

自由業はとくに。

まあ、お金を頂くのがお仕事になるのだろうけど、

好きな楽しい仕事だと、こんなに楽しんでお金までもらっちゃって…いいんかい。

と、いうようなことは何度もあった。

 

今回、わたしが依頼された「お仕事」は、ギャラが発生しない。

けど、とてもありがたいお仕事だ。

 

依頼されたのは、よく仕事で組むカメラマンから。

今作成している写真集の扉に来る挨拶の文章。

 

カメラマンの巨匠であるT氏は、

まさに好きなことがお仕事になり、ライフワークになっている人。

 

今回の写真集は、氏の集大成とも言える。

 

お電話で、その写真集のテーマや経緯を話してくださったが言わんとすることはすぐに伝わったので、わたしなりの文章を書いて送ったら、大層喜ばれた。

 

「僕の言いたいことがぜんぶ入っている」と。

 

だけど、氏はさらに盛り込みたいことがあるらしく、写真を見せたい、と今日ファミレスで会うことにした。

 

 

写真集はのタイトルは、「Another Kunisaki」

その通り、もう一つの国東、だ。

 

 

仏の里ととして知られる国東。

 

国宝や文化財、当時の権力者のための建造物や仏像があふれ、六郷満山文化が栄えた国東が、

いわゆるわたしを含めた多くの人に知られている国東だろう。

 

だけど、実は隠れたもう一つの国東があるという。

霊場183ケ所と呼ばれる霊場に、それは存在していた。

地元の人さえ知らない奥深い山の中に、

今は朽ち果てた寺や、廃墟となった岩屋、荒れ果てた草木の中に、点在する石の仏たち。

 

修業僧や、名もなき石工や、信者が彫った、様々な仏が、未だ健在しているという。

 

その183ケ所の中、70歳を超えたカメラマンが、たった1人でカメラをかついで、山を登り、道無き道を分け入り、2年の月日をかけて170ケ所以上を巡って撮りためたというのだ。

 

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(撮ってる様子を説明するT氏)

 

「岩と同化したような仏や、踏んでしまいそうな15センチほどの仏が、まるで撮られるのを待っていたかのように、そこでイキイキと佇んでいたんだ」

とカメラマンは、嬉しそうに顔を輝かせながら笑った。

 

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霊場を巡りながら、

生きることと同じ重さで、人々の暮らしの中に信仰が根付いたことを強く感じたという。

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その圧倒的なエネルギーあふれる一枚一枚の写真は、あまりにも神々しく、個性あふれ、思わず惹きつけられてしまう。

 

「これはもう、この霊場に呼ばれ、撮らされたしか思えない」とT氏。

 

そうでしょう、そうでしょう!

Tさん、どんだけ、写真好きなん⁈

と、言いたくなるほど、ここにはピュアな情熱が詰まっている。

 

この写真集のデザインは、氏が絶大な信頼をおくS先生だ。

その表紙も扉も、さすがに素晴らしい。

 

この写真集はカメラマンの自費で、作るのはわずか20冊のみ。

ほとんど図書館などに寄付するという。

 

 

そんな中で、文章のギャラを提示されたけど、

いやいやいや…(^^; 

それは頂けんでしょう。

「関わらせて頂いただけでも光栄ですから」

と丁重にお断りをしたら、せめてランチだけでもご馳走させて、とおごってもらった。

 

だからというわけじゃないけど(笑)

 

氏の話を聞いて、文章をもっと練り直し、エモーショナルに仕上げようと思う。

 

 

今秋の10月22日〜大分のギャラリーで個展が開かれるという。

 

ぜひ、一人でも多くの人の目にとまってほしいと思います。