初売りパン


(大量ベーグル完売!!)


相方のパン作りには短いけど歴史がある。
お試しに始まって、趣味になって、みんな分けてあげて、よろこんでもらって、さらに研究し、レパートリーも増え、腕が上がっていった。
みんなほめてくれるけど、まあ、はんぶんお世辞も社交辞令も入ってるだろう、と思っていた。
けど、次第にこんな声が聞こえ出しだ。
「○○のパンよりもおいしい!」「これはもうプロだよ」「このパン食べた出したら他のパン屋に行かなくなった」などなど。
驚いたのは、決して世辞を言わない、辛辣さがウリのわたしの友達が東京から来たときのことだ。
「ベーグルってきらいなのよ」と言いきった彼女が、相方のベーグルを見るなり、わ、おいしそうと思わずほおばった。
「ナニこれ?!こんなおいしいベーグル食べたのはじめてだわ!」
彼女はわたしの友人の中ではいわゆるセレブである。その上、いいものを食べ過ぎて極上級の舌を持っている。
その彼女がマジで感動したのには、タマげた。
そして、ある日のこと。
いつものようにうちに来たわたしのクライアントに、ドライフルーツ入り天然酵母のパンドカンパーニュを差し上げた。
すると、翌日メールが届いた。仕事上の連絡かとおもいきや、そんなことは一言も書いておらず、「あんなにもおいしいパンがどうやったら作れるのでしょう。お願いです。次回焼いたときに、ぜひ、有料で分けていただけないでしょうか?」と。
これは、もしかして、マジにイケるかもしれない。
我が家の経済状態から言って、そうそう道楽でパン焼き放題、みんなにあげ放題というわけにはいかない。せめて毎回通販で届く粉代くらい、もらってもいいのではないだろうか…?
で、おそるおそる日ごろお世話になっていて、相方のパンの味を知っているデザインMの社長とグラフィックデザイナーのK女史に、よければ有料でいりませんか?と写真付きで営業してみた。
ソッコー返ってきたメールには、「買います!」「大歓迎!」のありがたいお言葉。その上、スタッフのみなさんにも注文を聞いてみると言うではないか。結果、注文はカンパーニュ7コ、ベーグル13コ。
えええーーっ? うれしい悲鳴!!
あわててその夜、足りない分を追加で焼くことに。またまた大量に焼いたため、翌日我が家に来た打ち合わせのスタッフ3人に見せたところ、おいしそう!と、たちまち完売!
ほんとうに、驚くやら、ありがたいやら…感謝、感謝。
だけど、今回感じたのは価格の付け方だ。市販のものは買う側になると高いと思っていたけど、売る側になると、原価と労力と時間で見積もり、利益を出すとなると、確かにあのくらいはするだろう、とナットク。
こちらは素人だし、儲けるわけでもないので、ベーグルは100円、天然酵母カンパーニュパンは1ホール400円の価格を付けたけど、もちろん、ここには相方の労働分など入っていない。
この間、百円ショップに言って、なんの気なしに百円の品を手にして買いそうになったけど、これがあのベーグルと同じ価格なのか、と思うと、深夜、しんけんに作っている相方を見ているだけに簡単に買えなかった。
モノの価値というのは、作り手になってみて初めてわかるものなんだなあ〜としみじみ。
とても、プロのパン屋さんはムリです。