父の入院

父が転んで頭を打った。
脳外科医に行きCTを撮ったら、即日入院、翌日手術と言われた。
幸い、脳の中ではなく頭皮と頭蓋骨の間の内出血だったらしく、手術も一時間終わり、入院も10日間くらいで今日、退院の運びとなった。
私はレギュラーの新聞や住宅雑誌やらネットマガジンなどの掛けもちだったので、手術の日は病院へPCを持ち込んで待機。ありがたいことに手術は無事に成功し、その後も取材や仕事の合間に見舞いや助けに出掛けたが、みるみる間に父は小さくなっていくようだった。
お洒落好きな父のこと、病院が支給する寝巻きには不満だろうと、パジャマを買って行ったら、大層喜んでくれた。
自分はいつまでも元気だという気持ちに体が付いて行かないことが歯がいくて仕方ないようだった。
点滴が外れた日には、父と手をつなぎ、病院内外をリハビリのために散歩をした。
ヨタヨタ足で、片方の手で杖を持ち、片方の手で私の手をしっかりと握る父を隣にして、胸が熱くなって来た。
父と手をつなぐなんて、ほぼ30年か?40年ぶりだろうか?
どうみても隣にいるのは、つい最近までのガンコでプライドの高かった親父ではなく、80を過ぎた弱々しく、不安気な一人の老人だった。
今までのいろんなわだかまりが溶けて、遠い距離が身近になった気がした。
なんだかんだ言っても、私はこの人を愛しているんだ。
理屈ではない感情が一気に湧き上がって来たとき、はじめて父との別れを心で意識した。
とたんに寂しさも同時に込み上げて泣きそうになってしまった。
何度も、「ありがとう」と言う親父に、うんうんと頷くしかできない自分。
退院しても、尚、気丈夫な父は、自分のもつれそうな足を情けながり、悔しがる。
そんな父を見て優しく気遣う自分がいる。
「じじぃ、しゃんとせんかい!」と冗談まじりで言えない自分が妙に悲しかった。