二人のアーティスト

先日、友人に誘われて、すてきな作品展を見に行った。
場所はB市、路地裏温泉街の一角。地図は持っているんだけど、商店街の中を友人とうろうろ…結局人に尋ねて、やっと見つけた会場。
と、言っても大正から昭和初期あたりの古い家屋の2階。ほんとうに目立たない場所に、その人の作品展は開かれていた。


(「竹下洋子の編みの服」手描きの文字看板)

ご主人と共に世界的にも有名な、Yoko・Takeshitaさんの15年間もの作品の集大成が、こんな路地裏の家屋でひっそり開かれているとは…!
狭い階段を上がっていくと、そこは、まさに竹下さんの世界!!


(呆然と見惚れる友人M氏)


(古家とかわいい編みの服がマッチ)




色とりどりの色の海! しかも、元気になってくる。雨の日だったけど、華やいでくる。
かつて行った、地球の裏側の国もこんな色のセーターばかりだった。
明るい色のアルパカを着てたなーと思い出す。
「どういう過程でこの色や形が生まれてくるんですか?」
職業病でつい聞いてみる。
「デザイン画は描かないんです。計画もない。編んでいるうちに、思いつきのまま、できてくるんです」
まさに、アーティストのお言葉。
画家であるこの人は、キャンバスだけじゃ飽き足らず、編み物で色を外に飛び出させ、人が身につけることで、色に命を吹き込ませ、生活空間や、街の中、自然の中で生きてほしかったのかもしれない。
試着OKってことなのでもちろん着てみました。


(着て帰ろうかと思ったほどここちいい)

雨の日に似合う、すてきな一日だった。


さて、一方、もう一人のアーティストはただいま穴ぐらの中(笑)。知る人ぞ知る建築家S氏。
或る日、食事をしかかった時に、電話がなる。S氏の公私のパートナーであるN女史。
「なんしよんの?」いつものぶっきらぼうで甘ったるい声。
「ご飯食べてる」
「うちはなあ、アジの南蛮漬けやろ、サザエやろ、イソの天ぷらやろ…」
「だからなに?」
「食べに来ん?」
「早く言わんか!」 
平日の9時近くに食事の誘いの電話してくるやつもどうかと思うけど、食べかけのハシを置いて、即、出かけるうちら夫婦っていうのもどうよ…
ま、こんな感じだから、この変わり者建築家たちに気に入られているのかもしれない。
この、我が県が誇る建築家の家は、アトリエまでで2階の自宅に上がったのは初めてかもしれない。
中庭を囲って、リビング(と呼ぶのか?)に置いた食卓。そこに居座って、ふたりは、すでにほぼ出来上がっていた。

やっと長い仕事を終えたあとだと言うので、くつろぎ方もハンパない。
その雰囲気にすぐに入って、サザエやアジの南蛮漬けで、出されるビールをうれしそうに飲む相方。

それにしても、この家はすばらしい(って、この写真じゃわからないけど)。
まっすぐな線、何の障害物もなく、きっぱり切り取った開口部の美しいこと!
天井は狭いのに、座るととてつもなく開放感を感じる。さすがだなあ…と感心していると、「オレは性格は悪いが、作る建物は美しい」とS氏。
よくわかってらっしゃる。
絶対に譲れないもの譲れないというのは、性格にも建築にも現れているようだ。
「この天プラおいしいやろー、わたしが揚げたんでー」とじまんする、このやんちゃな少女のようなNが、今やリッパな後継ぎとなっているようだ。
「美味しいモノしか食うなよ。つまらんものは食わん方がいい」とS氏。
真実(ほんとう)のことしかいらん。と言っているようなアーティストとの会話は、飽きないし、いつ来てもおもしろい。