4月1日

根が正直なせいだろうか?わたしはこの日になると、むくむくとエネルギーが湧き始める。
一年に一度だけ、正々堂々とウソをつきまくっていいのである。
どうして、この日を楽しまずにいられようか!
かつて、どれだけこの日を堪能しただろう。
階段から落ちたふりをしてみたり、留守電にウソのメッセージを入れてみたり、友人の犬が死んだとメールしてみたり、妊娠したと夜の夜中に電話をしてみたり・・・すべて、みごとにみんな引っかかり、怒り、喜んでくれた。
去年は母が入院していたせいもあり、残念ながらその日の遂行はできなかったが、今年はこの日を迎え、あらたにみなさんの期待に応えねばなるまい。
ターゲットは身近な3人にしぼった。
それぞれに相応のネタを用意した。
まず、もっとも身近な相方である。
それは昨夜、午前1時をまわった頃に始まった。
夜中にメールが届いたふりをし、「従兄弟が女に刺された!」と驚いてみせた。
「ええっ?」と一瞬信じかけたが、さすがにもうきたえられたと見える。チラリと時計を見て、もう危険時間帯に入ったことを察した相方は、だまされるもんか!とばかり、鼻で笑ってみせた。
チっ。奴も知恵がついてきたとみえる。
まあ、いい。時間はたっぷりある。忘れた頃に仕掛けよう。
次の犠牲者は映画好きの友人Y子だ。朝、用事のメールのあとに、「ところでウィノナ・ライダーショーン・ペンがデキたという驚くべきニュースを知ってる?」
帰ってきた返信は「マジでっ?」 手ごわいと思ったが、意外にもかんたんに信じた。もっとも家に帰った後、ネットで探したのか、「あれはネタだったのか?!」のメールが送られて来たけど(笑)。
さて、真打登場はこのお方だ。
わたしの長年の4月1日は、このお方をなくして語れない。
最初に例を挙げたエピソードのオンパレードのほとんどは、この人に仕掛けられた。
わたしの大恩人であるS先生、その人である。
毎年毎年、「もう、だまされんぞ!」と宣言しては、みごとにだまされてくれる。
ほんとうに、感動するほど期待を裏切らない。
今回は4月1日前日に、本人自らわざわざわたしに向けて宣戦布告のごとく、覚悟のほどをかたってくれた。
「明日はぜったいに電話するなよ。ぜったいにつまらんことをするなよ!」と。
そうか、そんなに期待しているのか。電話じゃなければいいのか? ならメールか?
警戒しているようだから、少しの真実を織り交ぜてみせよう。
実はわたしが依頼した仕事の関係で近々、打ち合わせに行くことになっていたので、このネタを使わせていただいた。
シナリオはこうだ。クライアントの担当者が社長と販売部長と県の関係者を引き連れてそちらの事務所にあいさつに行くのでS先生が対応してほしいと、メールをした。
これだけで事務所を片付けねばとけっこう焦ったらしい。
それに追い打ちをかけたメールを送った。
“服装はジャケットにネクタイをして待っているように”
これでマジで正装して待っていれば、たいそうおもしろかったのだが、さすがにそこは、職人にして、アーティストだ。
即、電話がかかって来て「そんなことまでして仕事はいらん!他をあたってほしい」
その誇り高さに感動するよりも先に吹き出してしまった。あまりにも笑うわたしにやっと気付いたらしい。
「あ、」と絶句したあとは、言葉にならない言葉で、「あんたなー!」の連発だった。
毎年のことながら、ホントにありがとう。楽しませてくれて。
さてさて、最後のシメは、やはり愛すべき、うちの相方だ。
昨夜、みごとにかわしたことで、もう終わりだと油断していたらしい。
「今夜の夕食はテキサスバーガーにアイスクリームをご用意しています」のメールを信じ、こおどりしながら家路を急いだと見える。
「たっだいまー!」と蔓延の笑みをたたえてドアを開けた相方の前で、むごくも「ウソぴょーん!」と妻は言い放った。
「そ、そんな・・」すっかりバーガーモードいっぱいになっていた相方が、なだれおちるかのようにヒザを付いたのは言うまでもない。
こんな過酷な仕打ちをされてもなお、素直なひとびとは、来年の今ごろ、すべてを忘れてまたもや悪魔の刃にかかるのである。