クラッシュという映画

すごい映画だ。確実に現代(いま)をとらえた映画だと思う。
あれは、人種差別の映画だろうか?
そんな単純に一括りにはできない深さがある。
登場人物はみんなイラだっている。心がささくれ、みんなそれぞれに傷つき、また傷つけあって、それにひどく孤独だ。
表面には人種差別のようだが、一人ひとりが嫌って憎んでいるのは自分自身。自分の訳のわからないイラだちと、満たされない魂を誰かにぶつけたくて、誰かのせいにしたくて、たまたま、そこにいる弱者や異邦人のせいにしているだけのようだ。
本当は人種などどうでもいい。
彼らが欲しいのは、ただ一つだ。
「愛」
それだけだと思う。
人を疑わなくていい、恐れなくていい、自分を卑下したり、虚像のままでいたり、バリアを張ったり、張られたりしないでいい世界。
クラッシュしてでもいいから、わずかな真実の触れ合いだ。
人を信じたい。愛したい。
そんなシンプルな願いがかなわない。どうしたらいいのか、その術を知らない。
人を疑い、傷つけるほど、魂は傷つけられる。
怒りを抱えた孤独のサンドラ・ブロックがいい。
やりきれなさと、狂気すれすれのマット・ディロンもいい。

人同士のクラッシュが痛くて、辛くて、
もう逃げたくなるような前半を、わずかな光が差し込む後半が救ってくれる。
涙があふれてくる。
もう一度、人を信じてみよう。
愛もエンジェルも確かにいるのだと、微笑みたくなる。
あのペルシャ人のように。
厳しい極寒の中でこそ、灯りが暖かい。